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あたしとラブ、祈里。 三人の中で、せつなと一緒に過ごした時間が一番長いのは、あたしかもしれない。 そのほとんどは、イースでもある彼女の言いなりになって、ただ責められるばかりだった。 けれど。 一緒の時間を過ごすことで、見えてくる部分があった。 彼女の隙を――――弱みを見つけようとしていたあたしだから、なおさら。 あの日。せつなが、ラブからの電話を切った後の、寂しげな顔。 しばらく、忘れられなかった。 本当ならば、あたしは、そこを攻めるべきだったのかもしれない。初めて見つけた、彼女の弱点だったのだから。 だけどあたしは、そうしなかった。出来なかった。 人間なら誰もが持つ、触れられたくない、純粋な気持ち。せつなの横顔に見たのは、それだったような気がしたから。 きっと、その時からだろう。 あたしがイースを、せつなという人間だと認識し出したのは。 それまでは、ただ、敵としか思っていなかった。この世界を無茶苦茶にしようとしている、敵だとしか。 それだけじゃない。ラブを抱き、祈里を堕とし、あたしの体をいたぶっている。 彼女は、あたし個人にとっても、憎むべき存在だった。 なのに。 あんな顔を、されたら。 Eas of Evanescence VIII 「答えろ!!」 睨み付けてくるイース、だが、泣きそうなイース。 彼女の切羽詰った問いかけに、美希はしかし、声が出ない。 理解したくなかった。イースが、こうまでもラブに拘るその理由に。 「どうしてラブは、あんなにバカみたいに、私を信じることが出来るんだ!!」 それでも、わかってしまう。 イース、いや、せつなにとって、ラブの存在は心をかき乱すものなのだと。 「自分が辛い時でも、私の体のことを気遣って!! 私が戦いに巻き込まれなったことに、あんなに安心した顔を見せて!!」 イースの手は、もう動いてはいなかった。ただ美希の裸の胸に顔を埋め、震えるばかり。その声も、言葉も、彼女に 向けられたものではなくなっている。 あの時のことか。美希は思う。 ダンス大会に向けて、プリキュアとダンスの両方に目いっぱい頑張ったせいで、彼女達は倒れてしまったことがある。 その直前の戦いで、ラブはせつなが戦いの場にいないことに、安堵の溜息を付いていた。そんな彼女とイースを見て、 美希は複雑な想いを抱いたものだったけれど。 「私は、あの子を騙しているのに!! それにも気付かないで、私のことを、好きだなんて――――大好きだなんてっ!!」 顔を上げた彼女が発した、悲痛な叫びが。 美希の心に突き刺さる。 それでも、イースの瞳からは、涙は零れない。 まるで泣くということを、知らないかのように。 再び、胸に顔を埋めてくる彼女の震える体に。 美希は、そっと手を回そうとして。 「教えて......美希......どうして......どうして」 弱々しい声に、動きを止める。 「うまくいった筈なのよ――――ラブの心を篭絡して、私に夢中にさせて――――プリキュアを倒そうとした」 ポツリ、ポツリと溢れる言葉が、部屋の中に響く。外の日は、もう落ちたのだろうか。カーテンから差し込んでいた 光は、徐々に薄れてきて。 静寂と闇に、二人の体は包まれる。 ドクン、ドクンという鼓動の音を、美希は感じる。 それが自分のものか、イースのものか、わからない程に二人の体は密着していて。 「そう、うまくいってる筈だった――――なのに――――なのにっ!!」 ばっと頭を上げる、イース。 顔を近づけて、彼女は答えを乞う。 「どうして私は、こんなに苦しいのっ!?」 安堵したのは何故? 心の中に生れる問いかけ。 それは今日、ついさっきのこと。せつなが、最近はラブと祈里と会っていないと聞いて、彼女は確かに安堵を感じていた。 二人が心乱されることが無くなったから。また仲良くなったから。だから安心した。 せつなが自分という、プリキュアに残された最後の砦を打ち崩そうとやっきになればなるほど、二人から彼女を離 すことが出来るという思惑がうまくいっているから。だから安心した。 それは、しかし、上辺だけだった。本当は。 本当は、せつなが自分以外の子に目を向けていないことに、安堵した。 その独占欲を、綺麗な言葉で隠していただけだった。 素顔の彼女は、ただの女の子だった。 勿論、その全てを知っているわけではない。何故なら、彼女と美希の間には、脅すものと脅される者、犯す者と 犯される者という関係しかなかったから。 それでも。 物憂げな彼女の横顔が、気になった。 何かに追い詰められるように責められれば責められる程、何をそんなに焦っているのかが気になった。 ナキサケーベを操るようになってから、彼女の体に残るようになった傷が、気になった。 気になって、仕方なくなっていた。 どうして? どうしてそんなにも、ラビリンスに尽くすの? 尽くせば尽くす程、貴方の心は傷付いていっているのに。 戦いの最中、イースとしてプリキュアと闘っている時でさえ、貴方は心の中の何かを抑えつけるかのようにしていた。 その様を、闘っている時に、あたしは見ていた。 そして、その視線が向かう先をも。 気付かないようにしていた気持ちに、美希は向き合う。 そして認める。 あたしは。 あたしは、せつなが、好き。 体を支配されているからではない。これは、体からは生れない感情だもの。 この、愛と言う気持ちは。 そして、愛しているからこそ。 「答えが欲しい?」 美希の言葉に、顔を上げるイース。 「教えろ!! 私は、どうしてっ!!」 「それはね、イース、貴方が――――ラブのことを、好きだからよ」 愛しているからこそ、真実を伝える。 愛した人が、自分で気付いていない、想いを。 「私、が――――?」 驚愕に目を見広げる彼女。その目を、じっと美希は見つめる。 長い、長い沈黙。 やがて彼女は肩を震わせ始める。唇から零れるのは、 「フ、フフフ――――」 笑い声。 「フフフフフフ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」 体をのけぞらせ、イースは笑う。高い声で、笑う。 「私が!? ラブのことをっ!? アハハハハッ、そんな、そんなことなんてっ!!」 笑う彼女。まるで、狂ったように。 いや。 本当に、狂いそうになっていることが、美希にはわかった。 高らかな声と裏腹に、彼女の眼はまるで笑っていない。 むしろ、苦しんでいた。 その笑いは、壊れそうな心が、きしむ音。 「私がラブを好きだなんて、そんなこと、ありえないっ!! 私はラブを利用してるだけ!! 邪魔なプリキュアを排除 しようとしてるだけっ!! だから私が、ラブを好きだなんてありえないっ!!」 ずっと側にいた美希だから、彼女の気持ちがわかる。 二律合反。アンビバレンツな感情に、少女の心は引き裂かれそうになっている。 彼女は、愛することを知らない。 だから自分の感情にも、気付いていない。 そして、だから。 愛されることに、戸惑っている。 その癖。 自分の行いが、ラブを傷付けていることには気付いていて。 愛する人を、傷付けているのは自分。 なのに、その傷付けた自分を、彼女は愛してくれている。 無論、せつなは、自分がイースだということを話していない。 それでも。 彼女は、いたたまれない。 そんな風に愛されている自分に、イースは。 罪の気持ちを、抱いている。 美希は、不意に悟る。 彼女の願いを。 「安心しなさい、せつな」 イースの姿をした彼女に、美希は呼びかける。 苦悩に満ちた顔で、こちらを見てくるイースに、彼女は言った。 せつな。好きよ。 「あたしは」 大好き。愛してる。 「貴方のことを」 とても愛してる。愛してるから。 こう、言うの。 「憎んでるわ」 「そう――――なら、もっとひどい目に合わせて、屈服させてあげるわ」 言ったイースが見せた笑顔は、いつもの暗いものではなく。 とても、とても。 安堵に満ち溢れたものだった。 そうして美希は、愛する人の心を救った。 もしも彼女が愛を囁いたなら、イースの心は壊れてしまっただろうから。 イースに必要なのは、憎まれることだった。 何をしても許され、愛されることは、それに慣れていない彼女からアイデンティティを奪おうとしていた。 無邪気な好意ほど、その前に立つ者が自責を覚える物はない。そしてイースは、それを乗り越えられる程に強くは 無く、非情に徹することも出来なかった。 そう。 だから、彼女の本当の願いは。 憎まれたかったのだ。罰して欲しかったのだ。 嫌悪されて当然のことをしている、自分なのだから。 けれど。 憎まれたいと思っても、せつながイースだと知らないラブや祈里は、彼女を憎んだりはしないだろう。 なにより彼女達は、せつなを大好きだから。 憎むことなんて、しないだろう。 そしてせつなを、無意識に追い詰めてしまうだろう。 心を、壊してしまうだろう。 だから。 愛に気付いた美希は、心に決める。 せつな。 あなたの欲しいものは、あたしがあげる。 ただ一人、自分だけが。 イースを憎む。 憎み続ける。 それであなたの心が、救われるなら。 そうして美希は、イースに体を差し出し、蹂躙される。 憎まれている相手に、彼女は容赦をしない。 常よりも激しく、厳しい責めで美希を追い詰める。 勿論、彼女は一声も発しない。 発したら、自分が感じていることに――――愛する人に抱かれて、喜んでいることがバレてしまうから。 だから。 「――――――――っ!!」 今日も彼女は、唇を噛む。 愛する人とのまぐわいに、美希は、幸せで。 けれど、とても悲しかった。 そして彼女達は、運命に導かれる。 最後の一枚のカードを持ってきたせつなと出会ったのは、トリニティのライブの開かれるスタジアム。 憔悴し、消耗しきった彼女の体に、自然と彼女はこれが最後の戦いになることを予測した。 現れる、ナキサケーベ。 変身する、プリキュア。 キュアピーチに抱きしめられながら、イースは苦痛に絶叫する。 体、だけではない。 敵である自分ですら守ろうとする彼女の優しさに、心はきしんでいた。 そして明かされる真実。 イースは、少女達の前で変身して見せる。彼女達の親友、東せつなへと。 その時、キュアベリーは気付いた。せつなの悲愴な決意に。 せめて最後は、キュアピーチ――――ラブの手にかかって。 だからこそ、美希はラブをけしかけた。愛する人の最後の望みを、かなえてあげたい。 そう思ったから。 そう。 蒼乃美希は、東せつなを愛していた。 自分が彼女に求められていなくても、構わない。 彼女が親友を愛していても、構わない。 愛しているから。 だから心を鬼にする。 自分の本当の願いを、押し殺す為に、彼女は。 心を、鬼に。 ふと、目が覚める。 お昼ごはんを食べた後に、少し、うたた寝をしてしまったらしい。時間にしては、五分か十分程度だったけれど。 鏡の前で、寝癖が付いていないかをチェック――――よし、大丈夫。あたし、完璧。 ピンポーン チャイムが鳴ったが、インターホンに出ることもせず、美希は玄関に駆ける。その扉を開ける前から、誰が来ている かはわかっていた。 「いらっしゃい、せつな」 「こんにちは、美希」 笑いながら靴を脱ぐ彼女の名前は、東せつな。またの名を。 キュアパッション。 避-70へ
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アスタリスクラブ 作詞/54スレ49 切ないラブソング聴きながら 指に残る過去をなぞってく 身体に染み付いた香りに 胸の奥が炎を灯(とも)す 洗濯したベッドのシーツに そっと残る跡はまだ赤い 繊維に染み付いた思い出に 耳の奥はうずくだけ 出会った頃は 友達だった いつも一緒に 笑い合ってた 気づけば恋や愛を超えた 関係になってたのに ホタルの尻が灯るみたいに 二人求め合ったよね 熱を帯びた月のスピードで ツき合った夜もあった ホタルの尻が消えるみたいに 果てるそんな日もあった ツかれた後に飲むアルコールで 夢の中へ落ちていく Boys Love... My Lover Boy... Good Bye Boy... My Love Is End... YARANAIKA STORY...
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遠くから聞こえてくる太鼓と鐘の音。 祭りの開始を告げる祝砲が鳴り響く。 四ツ葉町の一大イベント。クローバーフェスティバルの開催だ。 「これすっごく可愛いよ。ありがとう、おかあさん」 「ありがとう。昨年の浴衣もまだ一度しか着てないのに」 「いいのよ、せっちゃん。晴れ着を新調するのは母親の喜びなんだから」 「いやあ、父親だって嬉しいものだぞ。よし、次は二人一緒に並んでポーズだ」 ラブとせつなが新しい浴衣を披露する。圭太郎は嬉しそうに記念写真を撮っていく。 「頑張って作った甲斐があるわ」とあゆみも上機嫌だ。 ラブは白地にいっぱいの花柄。ピンクに紺のラインの浴衣帯。 せつなは薄紅色の生地に大きなリボンと水玉の柄。赤い菱形模様の浴衣帯。 ポーズなんて取る必要も無い。自然にこぼれる笑顔。うずうずして勝手に動く体。 せつなはすっかり浴衣が気に入っていた。 華やかな浴衣を着ると心が弾む。わくわくして晴れやかな気持ちになる。 それでいて、しっかりと肌に馴染んで落ち着く。矛盾してるけど全部ほんとうの気持ち。 不思議だと思う。 お風呂上りの着衣として生まれたものらしく、軽くて風通しも素晴らしい。 もっと普段から着る機会があればいいのに。それだけが不満だった。 「美希たんとブッキーが待ってるんだ、あたしたちは先に行くね」 「おとうさん、おかあさん、行ってきます」 新調したばかりのピンクと赤の下駄を履いて玄関を出た。 賑やかな祭り囃子と勇ましい掛け声。いつもよりずっと多い人の流れ。 そわそわする気持ちを抑えながらゆっくりと歩く。 浴衣を着ると自然と動作はゆるやかに上品になる。決して動きにくいわけではないのに。 美しい着物姿をより美しく見せたいと思うからだろうか。 心なしか普段より人目を引いているような気持ちになる。 履きなれない下駄が更に歩みを遅くする。でもそれも悪くは無かった。 ゆっくり静かに動くことで、普段とは違う時間の流れを体験できる。いつもと違う 景色も見えてくる。 年に一度しかないイベントを、余すところ無く満喫するにはうってつけだった。 「ラブ~せつな~こっちよ」 「ラブちゃんもせつなちゃんも可愛い」 待ち合わせ場所は決めていたものの、人だかりが多すぎて合流に手間取ってしまった。 やっと揃って安堵の表情を浮かべる。 美希と祈里ももちろん浴衣姿。美希は紺に近い青地に蝶の柄。黄色い花柄模様の浴衣帯。 大人の雰囲気。 祈里は黄色の生地に赤い金魚の柄。黄緑の無地の浴衣帯。美希とは対象的に幼く可愛い 印象だった。 まずは広場に設立されたメイン会場に向かう。地元出身の超人気ダンスユニット “トリニティ”のステージがあるのだ。 会場に近づくにつれて祭りの露店も増えてくる。無数の屋台がひしめき合い、 競い合う様子は圧巻だ。 色んな食べ物やおやつの匂いが交じり合って食欲を刺激する。 屋台の垂れ幕や所狭しと突き立つのぼりが雰囲気を盛り上げる。 大きさを増す囃子と威勢のいい売り子の掛け声。五感の内の四つを刺激されては たまらない。 「あ~~もう我慢できないっ! おじさ~ん、たこ焼き四つお願い」 「ちょっ! ちょっと、ラブ。アタシはいいわよ。自分で食べるものは選ぶから」 「美希ちゃんは食べ過ぎたら大変だものね」 「………………………………」 せつなはしばらく呆然として、その後吹きだしそうになるのを必死で堪えた。 美希のタコ嫌いは秘密なんだ……。幼馴染なのによく隠し通せてきたものだと思う。 ジト目でサインを送ってくる美希の様子がまた可笑しかった。 おじさんに椅子を貸してもらって熱々の内に頂いた。 タコ焼きは屋台の食べ物の中でも一番人気だ。そして、冷めたら極端に味の落ちる 料理でもあった。だから最初に食べるのが良いのだとか。 食べながら歩けるのも人気の理由なのだが、浴衣姿の女の子はそうもいかない。 次に目をつけたのはりんご飴。赤い果実が飴に覆われてキラキラと輝く。大きいのは 我慢して、選んだのは姫りんご飴。 隣にはチョコバナナ。これも色んなトッピングが美しかった。小さなコーンが帽子の ように被せられて、顔が描かれてるものもあった。 突き刺したポッキーは腕の代わり。「これじゃカカシよね」と祈里が呟いて周囲の お客さんも大笑い。 せつなが目をつけたのはわた飴。砂糖を入れるだけで出てくるふわふわのお菓子。 味は駄菓子屋で知っていたものの、作り方が不思議だった。 「お嬢ちゃん、やってみるかい?」と声をかけられる。せつなは乗り出すように 見つめていたことに気がついて、恥ずかしくて真っ赤になる。 おそるおそる割り箸に絡めていく。作りたてのわた飴は、ふんわりしててとろける ような甘さだった。 そして会場に着く。 今年のゲストはトリニティのみ。スケジュールに余裕が出来たため、コンサート形式の 立派なステージプログラムが用意されていた。 まだ時間が早く、その前のイベントである一般参加のダンスコンテストが始まった ばかりだった。 コンテストというのは名ばかりで、楽しく踊る姿を見てもらうのが目的だ。昨年の 漫才大会がそうだったように。 始めたばかりで動きがちぐはぐなユニット。緊張して転んでしまうユニット。 お世辞にもレベルが高いとは言えなかった。 でも―――― みんな、本当に楽しそうだった。失敗すらも会場の笑いに変えて。その後、ちゃんと 励ましの声援を送ってもらって。 せつなたちもクローバーの活動を思い出して懐かしい気持ちになった。そして、 ちょっとうらやましかった。 クローバーはプロを目指すユニットだった。その練習は厳しく、楽しむという感じでは なかった。 人前で踊ったのはダンス大会だけ。不安と緊張との戦い。それはそれで充実していて、 素敵な思い出だけど―――― 「こんな風に、踊ってみたかったな」 ポツリとつぶやいたラブの言葉に全員が一瞬驚いて――そして、頷いた。 みんな同じ気持ちだったから。それぞれの道を歩んではいても、みんな本当にダンスが 好きだったから。 ダンスコンテストが終わり、順位の発表と景品の授与が行われる。優勝したのは ダンス大会の一次予選で見かけたユニットだった。 そしてしばらくの休憩を挟んで、メインイベントが始まる。 「皆様、お待たせいたしました。これよりクローバ-フェスティバル特別企画、 トリニティのスペシャルステージを開催します」 司会者が宣言してトリニティがステージに上がる。巻き起こる盛大な拍手。 会場は同じ。照明も音楽もダンスコンテストと特に変わることは無い。 しかし――――空気が一変した。 ミユキ、ナナカ、レイカ。たった三人の登場で会場が別の空間に姿を変える。 彼女たちの声に、視線に、魔力でもあるかのように。一挙手一投足に神秘の力でも あるかのように。 全ての観客から私語が消える。バラバラに楽しんでいた人たちが一つになっていく。 全ての意識は一つに。全ての関心は一点に。体を揺らし、腕を振り、合いの手を入れる。 美貌? 技術? 知名度? そんなものでは説明しきれない真のダンサーの魅力、 吸引力を思い知る。 せつなも、美希も、祈里も、久しぶりに見るトリニティのステージに魅了される。 ただ一人――――ラブを残して―――― 「ラブ――ラブ――どうしたの?」 せつながラブの様子のおかしいのに気付いて声をかける。 喜びと興奮に包まれる会場において、一人切なく悲しそうな表情を浮かべる。 拳は固く握り締められ、相当な力が込められていることを示すように両腕が小刻みに 震えていた。 「せつな……。大丈夫、なんでもないよ。トリニティのダンス、やっぱり凄いね」 「ええ……そうね」 せつなはそれ以上は追求せずに、ラブの拳をそっと開いて手を握った。 それでラブも落ち着いた様子だった。しかし、ステージが進むうちに再び様子が おかしくなる。 何かをこらえるような表情、せつなの手が痛みを感じるほど強く握られる。 もう――理由を聞くまでも無かった。 せつなの表情が後悔に歪む。ダンス大会で優勝したクローバーには、本来は プロデビューへの道が開けていたはずだった。 だが、せつながラビリンスへの帰還を宣言したことでクローバーは本来の姿を失った。 残された三人はせつな抜きで続けることを望まなかった。 美希と祈里もまた、それぞれモデルと獣医の夢を追うことになり、クローバーは 解散した。 ただ一人――ラブの夢を置き去りにして。 再会した時の、震えるラブの体を思い出した。溢れる涙を思い出した。 酷いことをしたと思う。ラブは家族として愛してくれた自分と、掴めたはずの プロダンサーへの夢を同時に失ったのだ。 それでも笑顔を絶やすことなく励まし、送り出してくれた。 平気なはずはない――平気なはずはないのに―――― 「せつな、どうしたの? 泣いているの?」 「ラブ……ごめんなさい。私は……そんなつもりじゃなかった」 いつの間にか立場が逆転していた。気が付くとステージは終了し、ラブの様子も元に 戻っていた。 湧き上がる心のまま謝罪の言葉を口にする。でも――そんなつもりじゃないなら、 どんなつもりだと言うのだろう。 あの時の私には、ラブのことまで考える余裕が無かった。私が成すべきことを知って、 果たすべき使命を見つけて、それで精一杯だった。 今度は、みんなにも幸せになってほしかったから。 だから――最も愛してくれた、助けてくれた、支えてくれた人の幸せを犠牲にして しまった。 ううん――本当はそんなことすら、考えようとしなかった。 「せつなは悪くないよ。全然ちっとも――悪くなんてないんだから」 ラブはそれだけで全てを察してせつなを抱きしめる。そして、そっとせつなに ささやいた。 「あたしは幸せだよ。だって、せつなと一緒だもん」って。せつなの瞳に浮かんだ涙が 一粒の雫となって流れ落ちる。 「ラブ、せつな、どうかしたの?」 「何かあったの? ラブちゃん」 「あ、ううん、なんでもない。久しぶりのコンサートで感極まっちゃったみたい」 せつなはラブの腕の中でそっと涙をぬぐった。脳裏によみがえる記憶。巨大ドームで ピーチに抱きしめられたことを思い出した。 あの時と――同じだと思う。ラブは私と出会ってから傷付いてばかりいる。 繰り返される後悔と自責。私の人生はこんなことばっかりだ。 私は人を――――不幸にする。 でも――それでも――今を頑張るしかない。過ぎてしまった時間は戻らないから。 ひとつひとつやり直していくしかないんだ。 顔を上げてラブと視線が合う。優しさと愛情に溢れた瞳が語りかけてくる。 「せつなは何も心配しなくていいんだよ」って。 小さく頷いてラブから離れる。心配そうにする美希と祈里に笑顔で振り返る。 今の私にできること、それは――今日という一日を精一杯幸せな日にすること。 「さあ、行こう! 美希たん、ブッキー、せつな。お祭りはこれからが本番だよ」 辺りはすでに薄暗くなっていた。 昼間のお祭りとは全く違った趣があらわれる。 賑やかな飾りにすぎなかった提灯がその真価を発揮する。 暗闇の中で揺れる光の波。夜空にうねるように走る、幾千もの灯りが描く軌跡の美。 ただ綺麗というのではない。何か心を躍らせる、楽しい気持ちにさせる力が感じられた。 自然の生み出す輝きとは異なる美しさ。街の美しさ、祭りの美しさは人の心が生み出す 幸せの煌き。 無数の屋台が灯りをともし、夜店へと姿を変える。祭りを楽しむ人たちの笑顔を明々と 照らし出す。 街の人全員が一つの生き物であるかのような不思議な一体感に包まれる。 普段なら同じ場所に居ても、目的は人により様々だ。 大勢の人が同じ目的で同じ場所に集い楽しむ。街全体で心を一つにして楽しむ。 きっとそれが祭りなんだと思った。 「う~ん、どれも美味しそう」 「種類も多いけど、同じものがあちこちで並んでるのね」 「ちょっと歩けば大体そろっちゃうね」 「甘い甘い。匂いやお店の人の手付き。使ってる具材。選ぶ要素は沢山あるのよ」 焼きとうもろこし。イカ焼き。この二つは匂いが素晴らしかった。クラクラしてくる ほどに。 焼きソバにお好み焼き。チジミに焼き鳥。鉄板で焼く小気味良い音と立ちこめる煙が 食欲をそそる。 フランクフルトにフライドポテト。ラーメンにおでん。日頃見慣れた食べ物が、 祭りの中では抗いがたい誘惑を放つ。 結局選ぶことが出来ずに、みんなバラバラに違うものを買って少しづつ分け合って 食べた。 お祭りに慣れていないせつなに楽しんでもらおうと、せつなの皿にはたくさん盛り付け られた。 とても全ては食べきれない。「ラブ、あーん」せつなはラブの口にせっせと運ぶ。 ラブの頬に冷汗が流れた。 腹ごしらえが済んだら他の夜店を見て回る。 射的。ダーツ。輪投げ。ヨーヨー釣り。景品に欲しいものが無くて挑戦しなかったが、 見ているだけで楽しかった。 そして、ひときわ大きな子供たちの声に足を止める。聞いたことのある名が出てきた からだ。そこは金魚すくいのお店だった。 男の子と女の子の二人。手元にはたくさんの破れたポイが散らばる。あれでは子供の お小遣いはかなり圧迫されるだろう。 ヌシと呼ばれる大きな金魚を狙っているらしいが、見る限りとてもすくえそうに なかった。 「ちっきしょー、隼人あんちゃんならこんぐらいわけないのにな」 「今年は来ないのかな? いっぱい探したのにね」 「ねえ、あななたち。隼人って言ったわよね?」 「言ったよ。図体でかくて馬鹿だけど、金魚すくいはすっごく上手だったんだ」 「おにいちゃん口が悪いよ。優しくて面白いお兄ちゃんなの。お姉ちゃんお知り合い?」 「ええ、残念ながら知り合いよ。あの金魚をすくえばいいのね、私にやらせてみて」 手にしたポイは二つ。構造は針金の輪に和紙を貼り付けたもの。水の付加をかければ あっという間に破れてしまうだろう。 だったら追いかけるのではなく、待つ。ヌシの進路を予測して頭の位置にポイをそっと 沈める。乗った瞬間に水面と平行に滑らせるように持ち上げる。 しかし――後少しということろでポイが破れ逃げられてしまった。落胆する子供に、 次は大丈夫よと声をかける。 気をつけるのは尾の動き。全身をポイに乗せては駄目なのだと知る。今度は更に慎重に、 頭と尻尾を枠に乗せるようにしてすくい上げた。 店主さんはやられたなあと頭をかきながらヌシを袋に入れてくれた。小さな袋に大きな 体。少しの間我慢してねと謝った。 ヌシは赤と白の対照がきれいな金魚だった。サラサリュウキンという品種だと祈里が 教えてくれた。 そして子供たちにプレゼントする。今年は隼人は来られないから、その代わりだと 言って。 「やった! 姉ちゃんも凄いな」 「ありがとう、お姉ちゃん。でしょ、おにいちゃん」 「いいのよ、大事にしてあげてね」 子供たちのキラキラ輝く尊敬の眼差しに気恥ずかしさを覚える。仲良く手をつないで 帰る二人を、せつなは手を振って見送った。 凄い……か。隼人もそう言われていたらしい。 ラビリンスで受けてきた訓練。他人を傷付け奪うための技術でも、使いようによっては 笑顔を生むことも出来る。 決意を新たにする。今度こそ自分の命を、力を正しく使って生きていこうと。 クローバーフェスティバルもいよいよ大詰め。ラストを盛大に飾る、花火大会が 行われる時間になった。 爆音と共に閃光が闇を切り裂く。 幾多の星が煌く夜空も、今夜ばかりは主役の座を奪われる。 一瞬の沈黙の後に開花し、色鮮やかな大輪の華を咲かせる。 次々と打ちあがる花火は、息つく暇も与えず大音響と共に振動を体に伝える。 低空で炸裂する庭園花火。見上げる必要すらなく、迫力を持って見るものに迫ってくる。 直径二百メートルを超える尺球。視界いっぱいに広がる星が球状に飛散する。 網仕掛。遥か上空より、光の雨が滝の如く降り注ぐ。 スターマイン。時間差で連続で爆発し、美しき光の絵画を夜空に描く。 繊細かつ大胆。儚くも激しい音と光の競演。見るのではなく、記憶に焼き付けられる ような美しさ。 「ねえ、せつな。花火ってね、一発一発がいろいろな思いや願いをこめて作られて いるんだって」 「人の手で作られているの? あれだけ大掛かりなものが?」 「うん、長い時間をかけて色んな工夫を重ねながらね。花火職人さんの夢を乗せて咲く から美しいんだって」 ラブがせつなの手をしっかりと握る。そして、ささやく。「いつかあたしたちも、 大きな夢を咲かせようね」って。 せつなは返事ができなかった。ただ、強く――強くラブの手を握り返した。 凄い数の花火が同時に上がる。耳をつんざく炸裂音。眩しいほどの強烈な閃光。 無数の色の光が更に次々と変化していく。形を変えながら夜空一面を染め上げる。 感動のフィナーレだった。 「美希たん、ブッキー、今日はありがとう。またね」 「ありがとう。本当に楽しかった」 「また四人で見られるなんて思わなかったもの。アタシこそありがとう」 「うん、おじさんとおばさんにもよろしくね」 ゆっくり歩いて家路につく。同じ緩やかな歩みでも、帰りの足取りはなぜか重い。 皆、祭りの余韻を惜しむかのように―――― 「ただいま、おとうさん、おかあさん」 「ただいま。遅くなってごめんなさい」 「おかえり、ラブ、せっちゃん」 「しっかり楽しんできたかい? 後悔しても後の祭りだぞ」 圭太郎の冗談で苦笑ながらも二人の間に笑顔が戻る。ラブもせつなも、なんとなく 元気がなかったので気を使ったのだ。 「まあ、祭りの後というのはそういうものだ。楽しみだった分、終わると喪失感が 大きいんだよな」 「ラブは毎年だけどせっちゃんまで。やっぱりお祭りの後は寂しい?」 「はい――少し」 「あはは、今から来年が待ちきれないよ」 本音を語るラブと、嘘を――――ついたせつな。 せつなは特に寂しいとは感じなかった。この家で過ごすことこそが一番大切な幸せ だから。 戸惑いを覚えるほどに、申し訳ないと感じるほどに、得がたい幸せだと思うから。 元気がないんじゃない。ただ、考え込んでしまっていた。 胸に渦巻く想い。コンサートの時のラブの様子。 手の届かなくなったものを苦しそうに見つめる瞳。伝わってくる激しい喪失感。 あれが――夢だと言うの? 花火を見ながらラブが言ってくれた。一緒に夢をつかもうって。答えられなかった 自分への歯がゆさ。 夢って何だろうと思う。幸せを導く大切な願い。わかるのは、ただそれだけ。 私の心からの願い。みんなを笑顔と幸せでいっぱいにしたいという想い。 これとラブや美希やブッキーの描くものは果たして同じなのだろうか。 わからないから逃げてきた。考えないようにしてきた。そんな気がした。 だから向かい合おうと思った。すぐには見つからなくても、探していこうと思った。 教えてもらうものじゃないような気がした。 必ず見つけてみせる。私の本当の夢。夢というものの真実の姿を。ラブと――一緒に。 「ねえ、ラブ! 私――精一杯がんばるわ!!」 「えっ、どうしたの? せつな」 「ふふ、なんでもない」 せつなの表情に明るい輝きが戻る。それはラブに、圭太郎に、あゆみに伝わり、 たちまち桃園家に明るい笑い声が響き渡る。 きっと見つかる。この街でなら。ラブや美希やブッキーや、おとうさんとおかあさんと 一緒なら。 せつなの決意をやさしく包みながら、幸せの街の一番幸せな日は静かにその一日を 閉じた。 新-063へ
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頭に木霊する美希の声。震える怒声。痛々しい泣き声。底冷えする皮肉。 そして、すべてを諦めたような力の無い呟き。 強く優しく、物分かりの良い美希しか自分達は欲していなかったのだろうか。 励ましてもらった。相談に乗ってもらった。気持ちをぶつけさせてもらった。 ただ、黙って側にいてくれた。 いつだって美希はラブの、祈里の、せつなの気持ちに寄り添おうとしてくれていた。 美希にどれだけ救われたか。数え切れないくらいなのに。 それでも、心の隅にあった冷めた感情。 所詮、当事者ではないのだから。 外側から眺めているだけの部外者だから。 魂に牙を立てられ、血を啜られるような思い。 心を握り潰され、毟り取られるような痛み。 美希には分からない。 自分達の気持ちなんて理解出来ないだろう。 そう、殻の外に美希を閉め出してはいなかったか。 「あたしね、思ってた。思おうとしてた。一番ブッキーが悪いんだって」 「うん…」 「それで、一番馬鹿なのはあたし」 「………」 「一番傷付いたのはせつな。それで、それでね。美希たんは……」 「…………」 「……関係ないって…。こんなゴタゴタ、美希たんには迷惑なだけだろうって…」 「……うん…」 「ブッキーさっきから、うん、しか言ってない」 「うん……」 ひっぱたいてくれた美希の熱い手のひら。 優しく髪を撫でてくれた綺麗な指。 毅然と叱ってくれた声。 何も言わず包み込んでくれた温かな膝。 どうして忘れていられたんだろう。 「ねぇ…美希たん、何か用があったんじゃないのかな?」 突然訪ねて来たわけではあるまい。 自分達の物思いに耽り、外の気配に気付かなかったのは迂闊としか言いようがないが 常の美希なら来る前に電話なりメールなりしそうなものなのに。 ラブの言葉に祈里は痛みを堪えるような顔になる。 「…約束、してたの……」 項垂れ、祈里は背中を丸める。 「美希ちゃんの部屋でね、一緒に勉強しようって…。」 「へ?じゃあ、なんで……」 自分を部屋に上げたのか、そう言いかけてラブは口をつぐんだ。祈里の自嘲があまりにも深そうで。 「忘れちゃったの。ラブちゃんの顔見たら」 ラブが訪ねて来てくれた。会いに来てくれた。例えどんな理由でも。祈里を詰る為だとしても。 ラブが自分から祈里の元へ足を運んでくれた。 舞い上がった。有頂天になったとすら言える。そして。 そして、美希とのささやかな約束など一瞬にして頭から消し飛んでしまった。 「…ブッキー…」 祈里は鞄に手を伸ばし、中を探る。底の方まで落ちていたリンクルン。 チカチカと点滅する光を見て、祈里は一層苦し気に顔を歪める。 何度着信があったのだろう。メールも何通も来てるに違いない。 多分、そこにはいつまで待っても現れない祈里を心配する美希が沢山いる。 この間の買い物。せつなとのやり取りを美希に詳しくは話していない。 それでも美希は何かあったのだと察してくれてる。 ずっと気にかけてくれていた。 電話で、メールで、放課後待ち合わせてお喋りして。美希は無理に聞き出そうとは決してしない。いつも祈里から話すのを待ってくれる。 今日だってきっとそう。 少しでも祈里の心が晴れるように何時間でも付き合うつもりだったに違いないのだ。 連絡も入れず現れる気配の無い祈里にどれほど気を揉んでいたのだろう。 何かあったのかと心配し、出ない電話や返信の無いメールに焦れて。 それならいっそ、と直接訪ねて来たのだろう。 そして、その結果がこれ。 聡い美希は瞬時に理解したに違いない。 祈里は美希の顔を見るまで、いや、顔を合わせた後でさえ約束の事なんてすっかり忘れていた事に。 美希に詫びる事すらせずにひたすら言い訳を並べ、ラブを庇う姿に どれほどやるせない思いをしただろう。 リンクルンを開く勇気がでない。 メールに溢れているであろう祈里への労りと思い遣り。 それに対峙するには今の自分は愚かすぎる。 その美希の思いを直視する資格など無いように思われた。 「…ねえ、ラブちゃん…」 泣き笑いの形に顔を歪めて祈里が問う。 「わたしって、昔からこうだったのかな……?」 結構、良い子のつもりだった。 少し前なら先約があるのを忘れるなんて考えもしなかった。 学校でだって目立つ存在ではないけど真面目にやってて友人だっている。 獣医を目指してるんだから勉強だって頑張ってる。 誰かの役に立ったり、人に喜んでもらう事が自分の喜び。 せつなの事は。せつなにしてしまった事は、そんな自分がおかしくなってしまったからだと思っていた。 「ラブちゃん、わたしね。せつなちゃんが好きで。好きで好きで好きで好きで………」 狂ってしまったのかと思っていた。 自分の中にあんなにも激しい感情があるなんて信じられなくて。 体を突き破りそうな激情を持て余して。 他の事は何も考えられなくなって。 苦しくて、苦しくて。無理矢理にでも奪えば、解放されるのかも知れない。 だから……。 「でも、違った。全部、何もかも…間違ってた」 やった事も、言った事も、今までも、たった今だって。自分が良い子だったって思ってた事も。 きっと昔から我が儘で自分勝手な人間だったんだ。 自分のやりたい事、欲しいもの。手に入れる為ならどんな事だって出来る卑怯者だったんだ。 恵まれてただけ。 恵まれ過ぎてて、自分がどんな人間か直視せずに済んだだけだったのではないのか。 いつだって欲しい物は手の届く場所にあった。 何かが欲しいと思う前に与えられてた。 両親は躾には厳しく無駄な贅沢はさせなかったが、お金で買える物には元々それほど執着が無かった。 物も愛情も空気のように体を包んでいるのが当たり前で、誰もがみんなそんなものだと思っていた。 自分は与える事に喜びを見出だす人間。 大切な人に笑顔になって貰うのが何よりの幸せ。 そう、信じて疑いもしなかった。 でも違った。 今までの自分を思い返す。 誰かの幸せの為に痛みを堪えて宝物を差し出した事は無かった。 欲しくてたまらない大切な何かを誰かに譲った事も無い。 もし自分の一部とも言えるほどかけがえのない物を手放しても、 それを手にした相手が喜んでくれるなら構わない。 そんな風に思えただろうか。 「無理だよね。だから…こうなってる…」 自分の考えに祈里は茫然とした。 いつだって人に与えていたのは手放しても惜しく無いもの。 身の回りに有り余るおこぼれを上から投げ落として悦に入っていただけではなかったか。 感謝の言葉や眼差しを心地よく浴びたいが為に施しを与えていただけではないのか。 恐ろしい。足元がガラガラと音を立てて崩れていく。 どれほど傲慢な笑顔を振り撒いていたのか。 自分では労りねぎらうつもりで掛けた言葉は本当に相手に届いていたのだろうか。 何もかもが偽りに彩られている気がした。 これっぽっちも優しくなかった自分自身。 せつなの言った通りだ。 馬鹿で、傲慢で、欲張りで。しかもそれを今の今まで実感してはいなかった、残酷なほど幼い自分。 そんな自分にせつながくれたのは、途方もなく甘く優しい罰。 笑顔で側にいる事。 せつなの幸せを見届ける事。 やっと分かった。情けないほど自分を甘やかしていた。 一度だって、本気で自分をどうしようもない人間だと思った事は無かったのだから。 せつなは、そんな祈里でも何とか乗り越えられるだろう甘い甘い償い方を教えてくれたのだ。 せつなの為ではない。祈里が罪に押し潰されてしまわない為に。 「どうしてそう極端なのかなあ……」 よっこらしょ、とラブが祈里の横に腰掛ける。 青い顔で項垂れる祈里の頭をコツンと小突いた。 「天使か悪魔か、どっちかでなきゃいけないってコトないでしょ。 誰だってその間でふらふらしてるもんじゃない?」 「……でも………」 祈里はゆるゆると首を振る。 確かにそうだ。誰にだって天使のように優しくなれる時、悪魔のように残忍になれる時がある。 それでも、と祈里は思う。 いざという時。何か危機や困難に直面した時、天使か悪魔かどちらかにしかなれないなら、 ラブは間違いなく天使になる事を選べるだろう。 大切な人の為に。もしかしたら、見ず知らずの他人の為にさえ我が身を 投げ出せるのがラブだと知ってる。 でも自分はどうだろう。少し前までなら、自分だって天使になれると無邪気に信じられた。 でも、今は…。 息が苦しい。自分が身勝手で利己的な人間だと認めるのがこれほど痛いと知らなかった。 苦痛から逃げ出す人間だと思われたくない。 でも、初めて愛した人を、姉妹のような親友達を裏切り傷付けた自分を 真っ当な人間だと考えるのを己の心が拒んでいた。 お前に愛や信頼を口にする資格は無いのだ、と。 「ねぇ、ブッキー。あたしそんなにイイコじゃないよ…」 ラブはポリポリと頭を掻きながら溜め息をつく。 「今日だってさ…別に、せつなのカタキ取ろうとか、そんなんじゃない」 だって、そうでしょ?こんな事、せつなが喜ぶ訳ない。 余計に苦しませるだけだって考えなくたって分かるもん。 それなのにさ…… 「恐かったんだ、あたし」 「……恐かった…?」 「なんか、色々薄れていくのが……」 辛かった。悲しかった。痛くて苦しくてどうしようもなかった。 ただ息をして、生きていくのすら難しい気がしていた。 それでも時間が経つにつれ、少しずつ傷が癒えて行くのが感じられた。 せつなの笑顔に祈里が応え、美希が側にいてくれる。 同じ場所で笑っている自分がいる。楽しいと感じている自分がいる。 何もかも無かった事にしてしまいたい。 また四人で笑いながら過ごして行きたい。 このまま月日が流れ、すべてが遠い過去になってしまえば……。 「ホントは…そうなれば一番いいのかも。ゆっくり傷を治して、ゆっくりお互いを許し合って…」 でも、それは嫌なのだ。とラブは拳を握り締める。 悪夢にうなされるせつなを見る度に、せつなの中に残った祈里の影を感じてしまう。 苦しむせつなを見るのが辛いだけではない。 悔しいのだ。 ずっと大切に守っていきたかった。 手のひらにくるみ込み、胸で温めてきた宝物。 それに理不尽な力で大きな傷を付けられた。 その傷さえ愛しい、そう思えるほど大人にはなれなかった。 穏やかに過ごす四人での時間にふと痛みを忘れている自分に気付く。 束の間の安息に、もしかしたらこのまま。このまま、元に戻れるかも知れないと淡く胸が温まる。 それでも目の前の傷はそれを忘れさせてくれない。 一瞬でも忘れようとした自分が許せなくなる。 忘れたい。忘れられる訳がない。 許したい。許したくない。 戻りたい。出来るはずない。 もし奇跡が起きて時間を戻せたとしても…。 また同じ事が起こるかも知れない。 だって心は変わらないのだから。 どれほど時間を遡ってもせつなを好きな自分は変わらない。 祈里だってそうだ。 そしてせつなも。きっとまた好きになってくれる。 そう、躊躇うことなく信じられるのに。 なのに立ち止まったまま足掻いている。 せつなは血を流しながらも、その傷を抱いていくと決めたのに。 共に歩む為に前を向いているせつなが眩しかった。 せつなが選んでくれた。 私はあなたのもの。そう言ってくれた。 相応しくありたいのに。 薄汚れた嫉妬にもがく姿なんか見せたくないのに。 せつなと祈里が悪夢と言う名の逢瀬を重ねている。 そんな風に感じる自分が堪らなく矮小でいたたまれないのだ。 「馬鹿だよねぇ……。せつなはあたしが好きって言ってくれてるのに。 せつなの隣にいて恥ずかしくないようになりたいのに」 やってる事は逆ばっかだよ。 せつなの中の祈里は消せない。 それなら祈里の中のせつなを真っ黒に塗り潰してしまえばいい。 せつなと同じ目に。別の存在を祈里の奥深くに無理やり捩じ込んでしまえば…。 「何でだろうね。やっちゃった後でないとどんだけ馬鹿か分からない…」 多分、それも間違い。 やってしまった後でも理解なんて出来てないんだろう。 分かったつもりになるだけ。 美希を、傷付け蔑ろにしていた事を今まで気付けなかったように。 「あたしさあ、ブッキーも好きなんだよねぇ…」 「………ラブちゃん…」 「ブッキーもあたしが好きでしょ…?」 コクリ、と頷く祈里を見て、あんなことされたのに、とラブは苦笑いする。 でも本当にそうなのだ。 きっと、途中で止めて貰えなくても。この先悪夢にうなされたとしても。 ラブを嫌いになる自分は想像出来なかった。 羨ましくても、妬ましくても、ラブさえいなければ、とすら思った事はなかった。 「困ったよねえ。恋敵なのに」 「……せつなちゃんも、そうなの…?」 だから、これほどまでに庇ってくれる。 おずおずと尋ねる祈里にラブはあからさまに嫌な顔をする。 この程度の事で一緒にするな、そう顔に書いてあるのがありありと読み取れた。 また不用意な言葉を口にしてしまった事に祈里は身を縮める。 「せつなはブッキーが好きだよ。あたしの為に許さないだけ」 「…………………」 「あたしが…あたしが、ブッキーを許してしまわないように頑張ってるの知ってるから……」 「許して…しまわない、ように……?」 「……ホントに、分からない?」 くしゃくしゃになった表情を隠すようにラブは抱えた膝に顔を埋める。 祈里は頭を振りながら滲んできた涙を必死に堪えていた。 分からないはずはない。 ずっと前から分かっていた。 ラブもせつなも許してくれている。 祈里自身が自分を許せないから罰を与えてくれてただけ。 自分よりもずっとずっと傷付いているはずの二人が、更に我が儘に付き合っていてくれてただけなのだ。 想う相手を諦める。それがどれほど難しいか分かるから。 目の前で微笑む愛しい相手に指一本触れられない。 自分ではない、他の誰かの腕の中にいる想い人をただ見ているだけ。 それがどれほど心を引き絞られるかが分かるから。 ラブにはせつながいる。 せつなにはラブがいる。 それだけで、他に何もいらないから。 だから、すべてを許して痛みを堪えてくれていた。 堪えようと耐えてくれていた。 そして、少し零れ出してしまったのだろう。 荒れ狂う思いの塊をせつなにぶつける訳にはいかない。 それならば自ずと向ける相手は決まっている。 祈里には、傷付いても耐える義務があるのだから。 「ねえ…あたし達、もっと大人だったらこんな風にはならなかったのかな…。 もっと大人だったら、こんな馬鹿な真似、せずに済んだのかな…」 何の覚悟も出来ていなかった。 痛みを引き受ける覚悟も。 大切な人を傷付ける覚悟も。 どんな結果であろうと受け入れる覚悟も。 ただ何もせず、流れに身を任せる覚悟すら。 見苦しく足掻き、自棄になって刃を振り回す。 後で更なる後悔が待っているとも知らずに。 「美希たんに、謝ろっか。二人で…」 「……でも…」 今さら謝罪に意味なんてあるのだろうか。 (アタシは許さないから。) (これ以上、失望させないで。) 美希の凍えた声が頭を巡る。 裏切ってしまった、どんな時も真っ直ぐに手を差し伸べてくれ続けた人。 美希の瞳から放たれた氷の矢。 そんな視線を幼馴染みに向けなければいけなくなった美希に詫びる言葉なんかあるとは思えなかった。 「許してもらえなくても、さ。悪い事した時は謝らなきゃ」 「ラブちゃん…」 それにね、謝ってもらいたいもんなんだよ。許す、って言ってあげられなくても。 はぁ…。と、深く溜め息をつくラブを祈里は横からそっと見つめる。 ラブは何度こんな溜め息をついて来たのだろう。 「ごめんなさい」 「あたしにはもういいよ。さっき言ってもらったし」 「分かった」 「ああ、でも許した訳じゃないからね」 「うん。それも分かってる」 許す。とは言ってはいけない。 それはラブの意地なのだろう。 祈里は何となくそれを感じ取り、そのラブの気持ちが何故か嬉しかった。 祈里が叶わなくともせつなを想う。 その想いが続く限り、ラブは祈里を許すとは口には出さないつもりなのだ。 許しを請う為に謝るのではない。 少しでもマシな人間になりたいから。 的外れな謝罪しか出来ないかも知れない。 美希やせつなの気持ちなんて分かっていないのかも知れない。 それでも、言葉にしなければならない。 伝わらなくても。撥ね付けられても。 相手を思い、気持ちに寄り添う努力を放棄する言い訳なんてどこにもないのだから。 「ラブちゃん、わたし、謝りたい。美希ちゃんにも、せつなちゃんにも…」 初めて、そう口にした。 みっともなく掠れた声。怯えを隠せない震える唇。 謝罪はいらない。許したくない。せつなには、面と向かってはっきりそう言われた。 やってしまった事を謝るのではない。 余りにも愚かだった自分に気付けなかった事を謝りたい。 せつなが好き。多分、これからも。 美希が大切。それなのに守ってもらって当たり前になっていた。 せめて罪を償うに足る人間になりたい。 甘え、頼り、寄り掛かったままその事に気付きもしない。 そんな人間のままでいて良い訳がない。 急に強くはなれないのは分かっている。 でもせめて…自分の弱さや愚かさから目を背けずに。 一つ一つ、ほんの少しずつでも気付いた事を糧にして行きたい。 もう一度、友達と呼んでもらえるように。 み-362へ
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ラブ・ルピア 火 アンコモン 4 4000 ファイアー・バード ■このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、次の自分のターンの始めまで、相手がクリーチャーを選ぶ時、バトルゾーンにある自分のクリーチャーを選ぶことはできない。(ただし、攻撃またはブロックしてもよい。) みんな、大好きだッピ❤❤❤❤❤❤❤ ―ラブ・ルピア 作者:影虎 収録 蘇生編 第一弾 (リヴァイヴ・ブレイブス) 名前 コメント
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(あたしも女の子なんだな.....) 最近、ふいに目を覚ましてしまう事がある。 決して眠りが浅い訳ではないのだけれど。 恋の悩みに直面してる。 それは嬉しくもあって、寂しくもあって。 「おはよう、ラブ。」 せつなに会える朝は待ち遠しくて。 「おやすみなさい、ラブ。」 せつなと別れる夜は胸が苦しくなる。 目を閉じれば、自然と浮かぶせつなの笑顔。 あたしにそっと微笑みかける。 「そんなに悩まなくてもいいのに。」 「だって…。あたしってさ…」 「ラブはラブのままでしょ。そのままが一番よ。」 「でも…」 「でも?」 せつなはあたしの事――――好きかな 肝心な時に目が覚めちゃう。 (はぁ~あ…) 暗い部屋の天井をぼーっと見上げて。 せつなと毎晩一緒に寝れたら…どんなにしあわせなんだろう。 別に一緒に住んでるんだから臆することなんてないんだけど。 だけど―――ね 枕を抱いて寝る癖がまた出始めちゃって。 ほんと恥ずかしい。 せつなに何回見られちゃったか..... 「ほんと子供っぽいよね、あたしって。」 「そうね。」 「早く立派な大人にならないとなー」 「いいんじゃない?子供っぽくても。」 ちょっと澄ました顔で呟くせつな。 どうせあたしはいつまで経っても子供ですよーだ。 「そんなラブも―――好きよ。」 平然と言ってくれるんだよね、すっごい台詞を。 あ、もちろん、これは夢じゃなくって。 「わはー!朝から嬉しすぎるよー!」 こうしてまた一日が始まる。 もしかすると人生で一番、今がときめいてるのかも。 まだ14年しか生きてないけどね。 (枕より私を抱きしめて欲しいのに.....) ~END~
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ラブ「今日は町内会の餅つき大会!みんなでお餅を丸めるお手伝いをするんだよっ。」 美希「とほほ・・・。誰よ、こんなときに晴れ着着て行こうなんて言いだしたのは・・・。」 祈里「美希ちゃんは、その姿もキリッとしててカッコいいと思う。」 美希「あ・・・りがと、ブッキー。」 せつな「これも、日本の伝統美なの?」 美希「そうね、伝統・・・は伝統かもしれないわね。」 カオルちゃん「いやぁ、晴れ着姿にたすき掛けか、イカすね、お嬢ちゃんたち!」 ラブ「ありがとう、カオルちゃん!」 美希「はぁ~。」 ――そして、餅つきが始まりました。 せつな「ラブ、大変よっ!四つ葉町にも魔人が現れたわ!」 美希「わぁぁっ、せつな、あれは違うのよ。リンクルン仕舞って!」 ラブ「見て見て、せつな。ああやってお餅をつくんだよっ。おじさんたち、手際よくてカッコいい! あ、カオルちゃんがつくんだ。カオルちゃぁん!カッコいいよぉ!」 カオルちゃん「サンキュー!言ったろ?おじさん、餅はついても嘘はつかないって。」 美希「それ・・・今言うことじゃないから。」 せつな「え?あれが、お雑煮に入ってたようなお餅になるの?」 祈里「そう。もち米を蒸かして、ああやって臼に入れて、杵でつくのが昔ながらのやり方なの。」 せつな「へぇ。二人一組で作るのね。」 祈里「そう。お餅が杵にくっつかないように手水をする人がいてね・・・え、ミユキさん!?ナナさん、レイカさんも!」 ミユキ「みんな見てて!餅つきもダンスと一緒、二人の呼吸を合わせるのが大事なのよ。それ、よいしょ!よいしょ!」 魚政の主人「トリニティが餅つきするたぁ、新年から縁起がいいや。いよっ!近頃の女の子はパワフルだね!」 タルト「ミユキはん・・・あんさんは、掛け声だけかいな。」 ――ひと臼つき上がりました。 魚政の主人「ほい、つき上がったよ。よろしくな~。」 駄菓子屋のおばあちゃん「あんたたち、餅を丸めるなんてしたことないだろ。ほら、こうやって水を手に付けて・・・」 ラブ「ふむふむ・・・あっついっ!!」 祈里「ラブちゃん、大丈夫?」 駄菓子屋のおばあちゃん「そりゃ熱いさ。ほら、素早く千切って餅取り粉の上に置いて行くんだよ。」 美希「何だか難しそう・・・。」 駄菓子屋のおばあちゃん「難しいことなんかあるかね。しょうがない、お手本見せてやるよ。・・・ほら、やってみな。」 ラブ「ダメだぁ。ねばねばしてるから、よけい熱いよぉ。」 せつな「しょうがないわね。貸して。」 祈里「・・・せつなちゃん、凄い!」 ラブ「うわぁ、見る見るうちにお餅の塊が並んでいくよ!」 美希「しかも、完璧に同じ大きさね。」 駄菓子屋のおばあちゃん「・・・・・・。ふん、こんなもんだね。」 魚政の主人「ばあさん、正月早々、相変わらず素直じゃねえなぁ。恐れ入りましたって、顔に書いてあるぜ?」 ――さあ、お餅を丸めましょう。 美希「こんなものかしら・・・。見て、きれいな丸い形。」 祈里「ふふっ、結構ハマるかも。楽しい。」 美希「なんかこの大きさと形って、何かを連想させるわね・・・。」 祈里「ヤダ、美希ちゃん、どこ見てるの?」 美希「ちっ、違うわよ!ラ、ラブは出来た?」 ラブ「うーん・・・出来た・・・かな?」 美希「・・・クローバーだからって、ハートマーク作ってどうするの。」 ラブ「違うよ、美希たん。うまく丸にならないんだよぉ。」 せつな「ねぇラブ、やっぱり桃園家では、元日に食べたみたいに、こういう四角いお餅にするの?」 美希「うわっ、せつな、これどうやって丸めたの?いや、これ、丸めたって言うか・・・」 魚政の主人「おうっ、もう伸し餅も作ったのかい?あれ?一切れだけ??」 ――出来上がり~。みんなで試食です。 ラブ「ん~、美味しい~!!」 せつな「ホント。それに、いろんな味付けがあって楽しいわ!」 祈里「つき立てって、こんなに柔らかいのね。」 美希「危ない危ない。食べ過ぎちゃいそうだから、気を付けないと。」 ラブ「今年もクローバーと、クローバータウンストリートのみんなで、幸せゲットだよ~!」 ~おわり~
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ねぎぼうの140文字SS【25】 1.ももゆりで【いじられて / うわごとのように】/ねぎぼう ももかの肩口に額を預け、 「しばらくこうしてて、いい?」 承諾するようにゆりの背中を撫でると、安心して顔を押し付ける。 ゆりはただ髪をいじられ、ももかの胸で安らぎのひととき。 「……ロン」 くぐもってはっきりとは聴こえないが、うわごとのように繰り返されるのは、名前? でも今はこのまま…… 2.[競作2015]あかね(&みゆき)「大切になった場所」/ねぎぼう みゆき、そない泣きそうな顔せんといて。 ホンマはな、最初ここ来たときめっちゃ大阪帰りたかってん。 ナントカしちゃってさーとか、絶対あかんわ思てた。 でもな、自分と友達になって、プリキュア一緒にやって…… 大阪の高校に誘われて行きます言うてんけど、こない行くのが辛なる思てなかったわ。 3.[競作2015]いおな&ひめ(&まりあ)「大切なお姉ちゃん」/ねぎぼう 「『お姉ちゃん、朝よ!』 『もう少しこのまま寝かせてムニャムニャ……』 『もう、お姉ちゃんったら!』 ……なあんていいかもって思ってなぁい、いおな?」 「そ、そんなこと……あるかしら」 「まりあさんって、寝起き悪いんだ?」 「たまーによ! 普段はびっしり朝稽古なんだから、勘違いしないで!」 4.ラブせつで【唇を重ねたまま / 無自覚な色気】/ねぎぼう 「いいよ、せつなだから」 その身を預けたラブと唇を重ねたまま、 せつなはラブに桃色の戦士のヴィジョンを見る。 (無自覚な色気を撒き散らかす、そんなお前を見ていると無性にイライラする! 女の色気に命を賭した戦士のまでも? リンクルンさえ奪ってしまえば、私の記憶の中だけに封じておけるのに) 5.[競作2015]ラブ&せつな「大切だから、大切なのに」/ねぎぼう あたしはせつなのほっとした顔が好き。 「お帰りなさい」ってお出迎えしたときの 「お家に帰ってきたんだ」って顔。 あたしはせつなの困った顔がすき。 「もうラビリンスに帰っちゃうの?」ってきいたときの、 本当はもう少しいたいという顔。 そんな困った顔をみてほっとしているあたしの顔は…… 嫌い。 6.まこりつで【押し倒して / イイ子にしててね】/ねぎぼう 誰もいないロッカールームに貴女と二人。 何故か傍にあの子がいない。 「今日は、ひとり?」 寂しそうな瞳。 耳に翼の生えた強欲の化身はもう眠りについた筈なのに…… 気がつけば押し倒していた。 「イイ子にしててね」 自分勝手に思いを遂げようとしておきながら、 貴女にそれを求めるなんて虫のいい話だわ。 7.[競作2015]ラブ&せつな 「大切な夢だって、わかってる」/ねぎぼう 別れの辛さがラブの心を軋ませていた。 「わかってる。せつなの見つけた夢だもん。 でも、痛いよ。胸の奥が痛いよ」 せつなはラブの胸に手を当てて、おまじない。 「いたいの、いたいの、とんでいけ」 不思議と痛みが和らぐ。 「ありがとう、せつな。皆、このおまじない知ってるの?」 「うん、何故かね」 8.[競作2015]ラブ(&せつな)「大切な人がいない夜」/ねぎぼう あゆみは遅番のため、圭太郎と二人での夕ごはん。 「ちゃんと食べてるかなあ」 「……大丈夫さ」 あゆみもいたら、1つ空いたテーブルに もっと心が押し潰されそうになっていたかもしれない。 あゆみへの作りおきに添えるメモ。 『お母さん おつかれさま ラブ せ』 書きかけて 「やだ、あたし……」 ※せつながラビリンスに旅立ったその晩の桃園家の食卓での一幕 9.ラブせつで【 おやすみ 】/ねぎぼう 特訓のことでせつなと気まずいままだけど、 帰るのはやっぱり同じ家。 今日の夕ごはんはせつなの当番だし、ここで…… 「せつな、何か手伝おうか」 「……」 結局最後まで気まずいまま、 部屋の前で「明日も寝坊しないこと」 それだけ言われてバタン! おやすみ、って言葉も言わせてもらえないなんてね…… 10.ラブせつで『黙って泣きやがれ』/ねぎぼう プリキュアウィークリーでは秘蔵VTRとして、 キュアラブリーと誠司との闘いが映されていた。 「うっわーん、めぐみー」 「ぐすっ、ラブとあの時やりあったときを思い出すわ……」 (泣くのは勝手だが、ちょっとは黙って泣きやがれ、なあんていえないよなあ……) (あの星にカメラ入ったのかな?)
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「美希、私は――――ラブのことが好き」 せつなの言葉に、美希は小さく微笑んだ。 今にも泣き出しそうな目をしながら、それでも――――微笑んでいた。 Eas of Evanescence IX 「美希の言う通りよ。私は――――死ぬことしか、考えてなかった」 ベッドに腰掛ける美希。せつなはその前で、床に置かれたクッションに座っている。その目は、軽く見上げるようにして、 蒼の視線を掴み取る。 スタジアムでの戦い。ラブは、イースに言った。命が尽きてもいいなんて、思っていないと。 あの瞬間、涙が零れたのは、それが本当のことだったから。 総統メビウスに、自分を――――自分だけを見て欲しくて。振り向いて欲しくて。 自分がここにいるんだと、認めて欲しくて。 その為に、戦ってきた。傷付くことも、死すらも恐れず。 なんだってした。なんだって出来た。ラブ達を騙すことも、その体を淫らな手段で絡め取ることも、迷うことなく出来た。 そう、出来たのだ。 けれど。 何一つ裏表のない、純真なラブの想いに、優しさに触れて。 迷いが生れた。このままでいいのか、このまま彼女を騙していていいのか、と。 迷いは、動揺を生み、やがて心に痛みが走るようになる。自分がしていることは、正しいのだろうか? こんなにも純粋 に信じられているのに、見ていてくれているのに、私はそれを裏切っていいのだろうか? そんな迷いを押し殺しながらも、彼女は戦い続けた。 ナケワメーケを上回る力を持つナキサケーベを与えられ、自らの命を削りながら、ただメビウスの為に。そうすることで、 自分を見てくれると――――大切にしてくれると、そう信じて。 だからプリキュアを倒そうとした。ラブを、倒そうとした。認められるなら、死んでもいい。そう思いながら。 けれどラブは、そんな彼女を助けようとした。抱きしめてくれた。 生きたい―――― そう思った。死にたくない。そう思った。 そんな思いを罰するかのように、ナキサケーベのカードから生れた闇は、彼女の体を締め付ける。 「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 ただ、叫ぶ。ラブに抱きしめられながら、叫ぶ。 痛い、痛い、痛い。体が痛い。心が痛い。痛い痛い痛い痛い。 どうして、ラブ。そんなに優しいの。敵の私に優しいの。 どうして、死にたくないなんて、私ですら気付かなかった心に気付くの? 気付いてしまうの? 気付きたくなんて、なかったのに。 やがて、張り詰めた糸が切れるかのように、意識を失いかけた。 その後、何があったかはおぼろげにしか記憶にない。シフォンが光を放ち、最後のナキサケーベをピーチが倒した、 のだろう。 気が付けば、自分を苦しめていた拘束は無くなっていて。 感じたのは、絶望。最後のカードを失い、これでもう、私を見てもらうことは出来ない、と。 その一方で。 生きていて良かった。そう思ってしまう自分もいて。 そんな自分が、許せなくて。 「無事で良かったね」 いつもの笑みとともに、ラブにかけられた声が、優しさが。 無性に、わずらわしかった。 嬉しかったけれど、たまらなく嫌だった。 「黙れ――――黙れ、黙れ!!」 二律相反する心を、せつなは自分で憎悪に塗り潰す。 もう終わり。私は終わり。これで終わり。 だから――――最後は。 「スイッチ・オーバー!!」 彼女は、イースから東せつなへと姿を変える。 「私の目的は、ただ一つ――――お前達を、倒すことだ」 これで、ようやく。 憎まれる。ラブに。 その後のことは、美希に見抜かれた通りだった。 自分の寿命が今日までと知った瞬間から、彼女は、ラブの手にかかって死ぬことしか考えていなかった。 ようやく、本当の自分で向き合える。愛する人に。 ラブは――――やっぱり、ラブだった。 憎まれると思っていたのに、欠片もそんなことはなく、自分を思ってくれていた。 嬉しかった。とても。 だからこそ、渇望した。 心置きなく戦い、そして――――死ぬことを。 彼女の中に少しでも、自分の存在を残しておきたかったのかもしれない。 この時にはもう、メビウスのことなど、頭の中から無くなっていた。 全ての力を振り絞り、ぶつかりあって、清々しい気持ちと共に残ったのは。 ラブへの、想い。 好きだという、気持ち。 そのまま死んでいれば、この想いは永遠に封じられていただろう。 届かぬままだっただろう。 けれど、彼女はキュアパッションとして、生まれ変わった。 あまつさえ、ラブと共に、桃園家で暮らすことになった。 こんなに幸せなことはない。 「死ぬことしか考えてなかった私が、今、こうして生きている――――生きてるからこそ、私は、大事にしたいの。この、 ラブへの想いを」 自分を変えてくれた、少女。 大切な、仲間。 共に暮らす、家族。 何よりも。 愛する人。 「私、ラブが好き。大好き。この気持ちに、嘘は付けないわ」 「うん」 美希は、頷く。ゆっくりと、深く。 わかっていたことだから。いつだって、彼女の視線の先には―――― 「けど、ね」 せつなは、まだ言葉を繋ぐ。わずかに目を伏せようとして、だが、もう一度上げて、まっすぐに美希の目を見つめる。 「生き返って、こうして暮らしていて、気付いたの。私が、どれだけ我侭だったか――――どれだけ、助けられたかを」 「え?」 強い光を湛えるせつなの瞳に、美希は戸惑う。それに構わず、彼女は続ける。 「美希がどれだけ、私の心を守ってくれていたか。どれだけ、私を大切にしてくれていたか――――それがわかって ――――そんな美希に、私は、ひどいことしかしてなかったと思って」 ラブの優しさに、心がきしんでいた頃。 その痛みから目をそらしたくて、せつなは、美希の体を責めるようになる。自分の正体を知り、かつ、自分に憎悪を 向けてくる彼女といる時だけ、せつなは――――イースは、苦しまずにすんだ。 何故なら、そこに裏切りはないから。 ありのままの彼女自身でいられるから。 だからこそ――――せつなは。 ラブを想いながら、美希といることを選んだ。 もう、ラブを騙したくはなかったから。祈里も、騙したくなかったから。だから、己の衝動をぶつけることの出来る美希を、 何度も何度も呼び出した。 そして、彼女に憎まれているのを感じることで、心の平静を保っていた。 自分は、憎まれて当然の存在。ラブに想いを向けられる資格は無い。想いを向けないで。そんなに真っ直ぐな好意を、 示さないで。私はラビリンスの人間。メビウス様の為に、あなたたちを利用しているだけなの。 乱れる心から生れる暴虐を、彼女は美希にぶつけた。そうして憎まれることで、ある種のカタルシスを得ていた。それは とても、被虐的なものだったけれど。 彼女は、気付いていなかった。 せつなはいつだって、美希の向こうに、ラブの姿を見ていた。ラブを好きだから、ラブに嫌われたくない。けれど、自分は ラブに嫌われても仕方ないことをしている。だから、私をそんな目で見ないで。好きにならないで。心が痛むから。 そう、彼女は気付いていなかった。美希がその全てを知りながら、自分を受け入れていてくれたということを。 気付いていなかったからこそ、せつなは美希を責めることが出来ていたのだけれど。 けれど、せつなは気付いた。キュアパッションとして生まれ変わって、彼女達の仲間になって、気付いた。 美希が自分を想ってくれていたのだということを。 ラブのように、真っ直ぐにではなく、包み込むようにして守ってくれていたのだということを。 彼女の想いを、苛立ちをぶつけられ、それを受け止めながら、壊れそうな心を守ってくれていたのだということを。 気付いた時に、彼女の心に溢れたのは。 「私――――ラブが好き。けれど――――」 一度、言葉を切って。一度、瞼を閉じて。 そして彼女は、ゆっくりと立ち上がる。 縫いとめられたかのように動けない美希の、側に寄って。 その手を取って。 顔を近付けて。 言う。 「美希のことも、好きなの」 呆然となる、美希。 何を言われたのか、わからない。 けれど、それは一瞬のこと。 掴まれた手を、引き寄せて。 抱きしめながら、体を回転させて。 せつなを――――ベッドに、押し倒す。 彼女は、抵抗しない。 何も、言わない。されるがままに、なっている。 重なり合う、体。 服越しに、ぬくもりが伝わってくる。鼓動が、伝わってくる。 美希は、せつなの肩に、顔を埋める。 彼女もまた、その両手を美希の体に回し、ギュッと引き寄せてくる。 二人は、無言のまま。 ずっと、抱き合って。 やがて、夕の帳が落ちてきて。 「外――――暗くなってきたね」 「・・・・・・うん」 「帰らなくて――――いいの?」 「・・・・・・今日は、泊まってくるって、言ってあるから」 「――――そう」 6-871物語は最終章へ
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「月光の幻」/黒ブキ◆lg0Ts41PPY (ったく!二学期入ってから課題とか多すぎなんだよ!) 大輔は机をゴソゴソ探りなから一人ごちた。 (しかも三回忘れたら補習とか!ありえねーし!) 時間は21時。夕飯後、忘れ物に気付いて学校に取りに戻った。 本当なら鍵が閉まってるのだが、生徒の間では幾つかの侵入ポイントが 公然の秘密となっており、大輔もその一つから忍び込んだ。 教室には月明かりが差し込み懐中電灯もいらないくらいだ。 ふと、隣の席に目をやる。 『ちぇーっ。ラブの隣かよ。』 席替えの時についそんな軽口を叩いた事を思い出す。 内心は嬉しくて堪らず、にやける顔を誤魔化すための照れ隠しだったのだが。 (オレ、東にも謝った方がいいのかな…。) この間の事だ。中々ラブと話すタイミングが掴めず、八つ当たりのように、 ちやほやされるせつなを皮肉った。 本気でせつなが疎ましかった訳ではない。 ただ、容姿の良さや勉強、スポーツで 転校初日からクラスの注目を集めた上にラブに構われっぱなしのせつなに、 まぁ、何と言うか、嫉妬しただけなのだ。 (でも、そんなに怒る事かよ。) 大輔としてはほんの軽い気持ちで出たものだ。深い意味もない。 でもラブの怒りは本物だった。 今まで散々軽口を叩き合ってきたが、あんなに本気の怒りをラブが 見せた事はなかった。 (何なんだよ、せつなせつなって気持ち悪りぃ。ベタベタし過ぎなんだよ。) その時、廊下にチラリと明かりが映った。 (っやばっ!見廻りか?) 大輔はキョトキョトとし、取り敢えず教室前の方まで移動して、教卓の影に隠れた。 「あっ!ラッキー、鍵開いてるよ!」 「先客が居たんじゃない?ラブみたいな。」 「なによ、もう!せつなの意地悪!」 クスクスと笑いを含み、からかうような声と、少し拗ねた風を装った声。 (……ラブと、東?) こんな時間まで2人で何やってんだ?と、思いながら、 一緒に暮らしてる、と言っていたラブの言葉を思い出した。 「あった?」 「あったあった。まったく課題多すぎ!しかも三回忘れで補習!ありえないよねぇ!!」 (……ラブも忘れ物かよ。) しかも自分と同じ事を言っているラブに何だかくすぐったいような気分になる。 それにしても、つい隠れてしまったがどうするか。今さら出て行くのも 気まずいと言うか……。 ラブ達が帰ったらこっそり消えるか。 「ふふふー…、せーつな。」 「きゃっ……!何?」 「だってぇ。せつな学校じゃ、あんまり触らせてくれないんだもん。」 「……そんな、……しょうがないじゃない。」 (………?) 「ちょーっぴり……不安になっちゃうかも。せつな可愛いからさ。 男子にも女子にもモテモテなんだもん。」 「………何言ってるの?そんなの……。転校生だから珍しがられてるだけよ。 そんな事言うならラブの方こそ……」 「あたしが?なんかある?」 「………仲のいい友達、たくさんいるじゃない。 …それに、大輔君だって……」 「へ?……大輔?」 昼間とは違う雰囲気を醸し出している2人に、嫌な違和感を覚える大輔。 自分の名前が出た事が気になりつつも、体が硬くなり教卓の影で身を縮める。 「すごく、親しそうだし。男子で大輔君の事だけ呼び捨てだし……」 「エェー?大輔とあたしが…ってコト?ナイナイ、それはない。」 「………でも、ラブはそうでも、大輔君は分からないじゃない。」 「いやぁ、大輔が?あたしを?それこそでしょー?」 「…………。」 「ははーん?せつなぁ……。ヤキモチ?」 「………………。」 「もぉ!可愛いなぁ、せつなはぁ。」 「そんなんじゃ、………んん……」 急に無言になった2人。 大輔は強張った体を捻り、様子を窺おとする。頭の隅から、 見るな、と言う声が聞こえる。 しかし、もう遅かった。 大輔はポカン……と顎を落とす。目の前の光景に声が出ない。 昼間のように明るい月明かりの教室。 ぴったりと重なるようにラブがせつなを抱きすくめている。 キス……。そんな軽い言葉では済まない。 教室の端と端でも、何度も角度を変え、深く重なっているのが分かる唇。 その奥で舌が絡まり合っているだろう事が知れる。 濡れた音さえ聞こえそうなほどに。 ラブの腕はせつなの細い腰に回され、もう片方はうなじ、背中、脇腹…と 慣れた手つきで撫で回す。 せつなはラブの首に腕を絡め、ラブの行為を当たり前の事のように 受け入れている。 身も心も許しあった、恋人同士の濃密な愛撫。 ラブの手がせつなの内腿を揉むように撫でながら、 スカートの中に潜り込もうとしている。 せつなはラブのいたずらな指先の浸入を拒むように、 あるいは逃がさず誘い込むように股を擦り合わせる。 2人の動作の細かな一つ一つまでが、精密な静止画のように 大輔の脳裏に焼き付く。 思考が麻痺し、ただ焼き付いた画像だけが頭の中に溜まっていく。 「……大輔は、ただの友達だよ。」 「………本当に…?」 「そりゃあ、他の男子よりはちょっとは仲良いかもだけどさ。」 「………。」 「もし、もしね、…万が一、大輔があたしを…無いよ?絶対無いけど。 そんな事があってもさ。関係ないよ。」 「………ラブ?」 「分かってるでしょ?あたしが好きなのはせつなだけ。 どれくらい大好きで大切か知ってるでしょ? 大輔は、友達。せつなとは比べられないよ。」 「………ん、ごめんなさい…。」 「もう…、まさか信じてくれてない?」 「…だから……ごめんなさい。」 身を寄せ、時にお互いの唇をついばみながらの甘い囁き。 大輔は2人の間に漂う淫靡な空気に、ずっと密かに思ってきたラブの口から出た、 『ただの友達』と言う台詞にショックを受ける事すら忘れていた。 「あっ……。ダメ、これ以上は……やっ…。」 「なんで……?誰もいないよ?いいじゃん。」 「……あんっ…、ここ、学校よ。……こんな事しちゃいけないわ……。」 「せつなは真面目さんだねぇ……。」 「……だからっ…んんっ……ダメ。…続きは帰ってから…、ね?」 「絶対だよ……?」 ラブの指先がせつなの胸元を引っ掻くような仕草を見せ、耳朶を甘噛みする。 せつなは微かに眉を寄せ、少し開いた唇から濡れた吐息を漏らし、身を捩る。 大輔の体が震える。頭に不快な金属音が響き、吐き気がする。 思わず目をそらし、床に視線を落とす。 その時……… 蒼白い月光に包まれていた教室に、一瞬、夕焼けよりも赤い光が満ちる。 (……なっ…何だ?!) 思わず顔を上げる。 そこには、相変わらずの眩いばかりの銀色の月光。 それに、静まりかえった人の気配すらない教室。 (…………はあっ?) ついさっきまで、体をまさぐり合っていたはずのラブとせつなは 影も形もない。 大輔が視線を外したのはほんの一瞬。扉までの数メートルを 移動する時間すらないだろう。 それに、古い教室の引き戸は開け閉めすると派手に軋んだ音がする。 例え、思いの外長く思考停止していたとしても気付かないはずがない。 (は……はは、夢?ってか、妄想か?) 大輔は床に尻餅を付き、自分の髪ををグシャグシャに掻き回す。 (そっか、そーだよな。あんなの……ありえねーしよ……) 頭の奥で、違う。と叫ぶ声がする。 しかし、大輔はそれを無視して聞こえない振りをした。 あんな事、あり得ない。あるはずがない。 (しっかし、オレも趣味悪ぃな。どうせ想像するなら、もっとこう……、 ってか、なんで相手が東なんだよなぁ?) きっと、八つ当たりで暴言を吐いた罪悪感がそうさせたんだ。 そうに違いない。 大輔は、自分でも丸っきり説得力の無い理由だと分かりながら、無理やり 納得したと信じ込もうとする。 夢なんだよ……。 頭に焼き付いてしまった、画像が意思と関係なくフラッシュバックする。 深く重なった唇。 お互いの体をまさぐる手慣れた手付き。 甘く囁く、湿度の高い声。 夢なんだよ。 そう、大輔は自分に言い聞かせる。暗示を掛けるように。